濃いお茶がこわい

ブログ名は、落語「饅頭こわい」のさげ。よく出来た話である。

【読書log】少し変わった子あります/森博嗣

粗忽長屋〉という落語がある。そそっかしい男が、自分が行き倒れになったことも気づかず、生きている。

「おーい、行き倒れだ、見てってくれ」

「お、何だ何だ」

「お前さん、この男を知らないか」

「熊五郎じゃないか!」

「知ってるのか」

「知っているも何も隣人だ。当人に引き取らせますよ」

「え?生きてるのかい、これは昨晩からここにいるんだ。じゃあ、熊五郎じゃないね」

「いや、間違いなく熊五郎だよ。そそっかしい奴なんだよ。自分が死んだこともわかってねぇんだ。連れてきますよ」

「何を言ってんだい、困ったもんだねぇ」

熊五郎を連れて、言い放つ。

「さっきはどうも!連れてきましたよ」

「居なかったろう?え、居ただぁ?」

「最初は自分じゃないなんて言ってましたがね。今朝うんこしたから死なないとかね。でも、それも可愛いですよね?」

「うぅ…うぅ」

「泣いたって無駄だよ、君じゃないんだから」

「何だとこの野郎。当人が当人だって言って何が文句あるか。ほら熊五郎、抱け抱け」

「うぅ…うぅ。うわぁーん。…あれ、何だか分かんなくなってきだぞ…抱かれてんのは確かに俺だが、抱いてる俺は誰だろう」

新潟出張中、丁度『超釈 走れメロス』を読み終えてしまった。仕方なしに本屋へ駆け込んだ。新幹線に乗る手前、選択の時間は十分ほど。手に取ったのは、森博嗣『少し変わった子あります』だった。異様なその、言葉に惹かれた訳だ。

小山は、行方不明になった荒木に教えられたあるお店に行き、そこで、一対一で女性と食事をする。食事するだけだ、それ以外は何もない。だが、そのお店の女性たちは実に上品に食事をする。食べる仕草、手のしなやかさ、展開される会話に釘ずけになる。が、明らかにおかしいのだ。お店の場所は毎回異なり、店の名前すらない。女将の名前も、もちろん明かされない。それでいて同席する女性のプライベートを聞くのはNG。しかも、行く度に女性は変わる。二度と同じ女性と会うことはない。わかっているのは、予約するための電話番号のみ。小山はもちろん、不思議に思う。毎度、上品に食事する女性を見るだけ、そして、少し話をするだけ。それが、これほどにも刺激的か。不思議に思いながらも、その店のサービス、女性たちに小山はのめり込んでいく。

小山が不思議に思っている、その様子を見て、不思議に思う私は何だろう。