濃いお茶がこわい

ブログ名は、落語「饅頭こわい」のさげ。よく出来た話である。

【読書log】グラスホッパー/伊坂幸太郎 *再読*

本屋さんで「グラスホッパー 映画化」というポップを見て、これは予習しなければと思い、読み返した。なんでこんなにもエンターテイメントを盛り込めるのか、不思議でならない。人を自殺させる自殺屋「鯨」。最愛の妻を殺した寺原長男への復讐を誓う「鈴木」。殺しの才能を生まれ持った「蝉」。この三人と取り巻く周囲は、寺原長男が押し屋(道路から押し、交通事故に見せかけて殺す)に殺された事案によって交錯していく。というか、巻き込まれていく。

あの有名な、赤と緑のブラザーズのゲームみたいだ、と思った。姫を巨大で凶暴な亀に奪われ、助け出すストーリー。歩くきのこ、空飛ぶ亀。宙に浮くブロックに頭からジャンプしてコインを受け取る。時々土管から地下へ移動し、表面から裏面へと場面が切り替わる。裏面には表面では受け取れないジャンボコインがあることも少なくない。再び土管から地表へ出ると、もうゴール目前、なんてもこともままある。宙に浮かぶブロックから花が出て、触れると火の玉を出すことも可能だ。ゲームとは言え、よくよく考えてみるとおかしい。おかしいのに、引き込まれていく。気づけば、とにかく火の玉を出し、走り出している。

グラスホッパーも表と裏を行ったり来たり。それは、三人の状況がそれぞれに並行しながら、話が収束へ向かっていくからか。「その展開は手詰まりでは?」と思わせる一手に、妙な活路が開かれていく。そして、読者も引き込まれ、気付いた時にはもう事態は先に走ってる。さらに事態は変化しているのに、臆せず、コマンド「→」を押す、あのゲームのようだ。とにかくやるしかない、そんな状況での走行と脱線、そしてまた本線合流を繰り返す。だが、安心してほしい、ユーモアは満載だ。