濃いお茶がこわい

ブログ名は、落語「饅頭こわい」のさげ。よく出来た話である。

【読書log】旅のラゴス/筒井康隆

帯に「いま、売れてます」という文句が書かれている。それは、どういう意図があるのか。甚だ疑問だった。面白いと謳うのではなく、買っている人が多いよ、と宣伝するのは内容を、もっと言えば著者を無視した行為ではないのか。と、まんまと乗せられてしまったわけである。興味本意で私も買ってしまった。

集団で瞬間移動できたり、壁をすり抜けられたり、他人と同化し思考を察知できたり、空を飛んだり、所謂超能力を持つ人々がいる世界。代わりに、文明が遅れている。例えば、銀の抽出方法を知らない。発電がない。コーヒーもない。奴隷制度が蔓延っていたりする。主人公であるラゴスは、そんな世界を一人で旅する。場所場所で共にする人々たちは、みな、ラゴスのことを慕う。きっといい男なんだなぁ、と思いながら読み進めていく。しかし、あえて言うならキャッチーではない。異世界・異空間という設定であるからこそ、読了できたのであり、そうでなかったら旅の途中でそっと積ん読レベルだった。

確かに、悪くない。旅というテーマに沿って、要所要所で想像を掻き立てられるシーンもあり、逆に言えば、文章から読み解かなくては読み進められない状況も引っ張って行ってくれるファクターではあった。だが、おおよそ昔の女を忘れられない女々しい男が旅するという、悲惨な書かれ方をしても「確かにそうかも」と個人的には同意してしまうかもしれない。ただ、まぁ、ラゴスよ、「旅の恥はかき捨て」らしいぞ。